医療の解説

このページでは、標準的外科医療と独自開発した先端医療について解説しています。

顎関節症

顎関節が痛くて口が開かないクローズドロック(非復位性円板転位)(図1)は頻度が高く難治性のタイプの顎関節症ではあるが、適切に治療されれば早期に劇的な改善が得られる。

マニピュレーション療法(徒手的関節授動術)

1970年代に米国で報告された理学療法で(図2)、簡便かつ即効性である。本邦の報告では(参考論文1)、奏効率は50%程度と高く、さらに関節パンピングを併用することにより向上(55~60%)する。

関節ロッキングとなって数日~2週間程度の早期例が最も効果的である。なお複数の関節穿刺による関節洗浄療法(図3)では71%の奏効率(アンロック)が得られた(参考論文2)。

顎関節鏡視下剥離授動術

 1990年頃、当時の京大在籍時に共同で開発した手術法で、関節内に直径2mm程度の内視鏡を挿入して診査のうえ、剥離操作を加えて開口しやすくするものである(図4)。健康保険適応となって久しいが、施術可能な病院は少ないのが現状である。われわれの約200例の経験では、手術時間は約1時間、奏効率は80~90%である(参考論文3)。

関節円板切除術

 病状が慢性化して難治性となると、より治療確実な関節円板切除術が適応される。19世紀末より欧米で始められた手術法で(図5)、関節切開、開放下に円板を取り除く方法で疼痛緩和効果が高い(参考論文4)。手術は1~1.5時間、奏効率は90%程度。術後リハビリ(開口訓練とその他理学療法)を要するため、抜糸までの1週間程度の入院治療が標準的である。

関節形成術

 頻度は少ないが、変形性顎関節症の一部で断裂した円板切除、変形した骨修正など付随的手技を行うものである。

顎関節脱臼

顎運動の障害と閉口障害を示す疾患であり、近年、高齢患者が増加して社会問題となりつつある。頻繁に繰返す習慣性脱臼、さらに整復できない陳旧性脱臼は深刻であり手術が適応される。関節運動での干渉(引っ掛かり)を解消するためには次の2種類の術式が一般的である。前方障害物形成法(頬骨突起形成術)(図6)(参考論文5)と関節平滑化法(関節結節削除術)(図7)(参考論文6)で、それぞれ90%を超える奏効率が報告されており、患者さんの状態により選択される。手術は片側1時間程度である。われわれは、関節隆起切除術に加えて円板切除術あるいは下顎頭切除術を併用することにより再脱臼の制御を向上し(参考論文7)、さらに陳旧性脱臼の観血的整復率の改善することを報告した(参考論文8)。

なお、低侵襲手術として関節鏡視下結節形成術を独自に開発し(図8)(参考論文9)、一時、厚労省の高度先進医療として認可され、国際的にも注目された歴史がある(図9)。

一方、高齢患者や基礎疾患があり全身麻酔が困難な場合に適応可能な局所麻酔下の手術法を開発した(図10、11)(参考論文10)。さらに超高齢患者などで確実な手術効果が必要とされる場合に応用できる、スクリュウとワイヤを利用した関節捕縛拘束術を開発した(図12)(参考論文11)。

顎関節強直症、外傷

最近は減少しましたが、外傷後の治癒不全などにより発症する顎関節強直症は、著しい開口障害(開口0~数ミリ)を示して摂食咀嚼機能を制限します。基本的に、手術(顎関節授動術(図13)と術後リハビリで治療します。

顎変形症(先天的、後天的)および関節再建手術

顔貌や咬合異常を示す顎変形症に伴う咬合不全、咀嚼不全、顎関節機能不全に対しては、従来からの変形の改善を目的とした外科的顎矯正手術に加えて、顎関節機能、症状を勘案した手術法を選択あるいは併用します(図14~16)。治療プランニングは矯正歯科、歯科放射線科などと相談のうえ検討します。

先天性、後天性の高度の変形を伴う患者では、骨延長手術や上下顎骨切り術を併用します(図17、18)。

また、腫瘍切除後の関節再建法については、大掛かりな移植手術は可及的に避け、口腔内からの骨切り術などで機能的、整容的配慮につとめます(図19、20)。

腫瘍外科、頭蓋底外科

顎関節には良性腫瘍のほか、まれに悪性腫瘍が発症しますが、腫瘍切除と必要に応じて頸部廓清術、皮弁再建術、神経再建を行います(図21)。

顎関節部に発生する悪性腫瘍に対しては、切除後の咀嚼、顎運動機能の温存に加えて頭蓋底組織への配慮が必要となります(図22、23)。

 

以上、Science & Artsの基本信念を携え、何よりも患者さんの救済を最優先に診療提供させていただきます。


参考文献

1、瀬上 夏樹、村上 賢一郎、他:顎関節内障クローズドロック症例に対するマニピュレーションならびにパンピングマニピュレーション療法の評価。日本口腔外科学会雑誌34: 1123-1131, 1988.

2、Nishimura M, Segami N, et al.: Prognostic factors in arthrocentesis of the temporomandibular joint: evaluation of 100 patients with internal derangement. Journal of Oral and Maxillofacial Surgery 59:874-877, 2001.

3、Kaneyama K, Segami N, et al.: Outcomes of 152 temporomandibular joints following arthroscopic antero-lateral capsular release by holmium: YAG laser or electrocautery. Oral Surgery Oral Medicine Oral Pathology Oral Radiology and Endodontics 97:546-552, 2004.

4、Takaku S & Toyoda T: Long-term evaluation of discectomy of the temporomandibular joint. Journal of Oral and Maxillofacial Surgery 52:  722-726, 1994.

5、Gosserez M. & Dautrey J.: Luxations temporo-maxillaires et butées arthroplastiques. Revue de Stomatologie, de Chirurgie Maxillo-faciale et de Chirurgie Orale 65: 690-694, 1964.

6、Myrhaug H: A new method of operation for habitual dislocation of the mandible – Review of former methods of treatment. Acta Odontologica Scandinavica 9: 247-261, 1951.

7、Segami N, Ikoma Y, et al.: Eminectomy versus eminectomy with additional procedures for temporomandibular joint dislocation. International Journal of Oral and Maxillofacial Surgery, 投稿中.

8、Segami N, Kato K, et al.: Surgical strategy for long-standing dislocation of the temporomandibular joint: Experience with 16 medically compromised patients. British Journal of Oral and Maxillofacial Surgery 57: 359-364, 2019.

9、Segami N, Kaneyama K, et al.: Arthroscopic eminoplasty for habitual dislocation of the temporomandibular joint: preliminary study. Journal of Craniomaxillofacial Surgery 27: 390-397, 1999.

10、Segami N: A modified approach for eminectomy for temporomandibular joint dislocation under local anaesthesia: report on a series of 50 patients. International Journal of Oral and Maxillofacial Surgery 47: 1739-1744, 2018. 

11、Segami N, Nishimura T, et al.: Tethering technique using bone screws and wire for chronic mandibular dislocation: a preliminary study of refractory cases. International Journal of Oral and Maxillofacial Surgery 47:1065-1069, 2018.